緯度0大作戦
英語版タイトル
LATITUDE ZERO は
僕が大好きな映画の一つで
もう何十回と見ています。
何十回と見たのは
DVDを購入してからで
2006年にDVD化される前までは
DVD化が困難とされた
いわゆる“ 封印作品 ”といわれる
映画でした。
この作品を
リアルタイムで
見ることはできませんでしたが
20年以上前でしたか
「 大井町武蔵野館 」で
「 緯度0大作戦 」
「 獣人雪男 」
「 キングコングの逆襲 」の
3本立てを上映するという
情報を見たときに
胸が躍ると同時に
「 これを見逃したら
もう見られないかも・・・。」
なんて思いつつ
行った覚えがありましたね。
そのほかにも
「 怪談バラバラ幽霊 」
「 生首情痴事件 」
「 沖縄怪談 逆吊り幽霊
/ 支那怪談 死棺破り 」の
3本立て上映なんかも
よく見に行きましたね。
「 緯度0大作戦 」や
「 獣人雪男 」の上映は
人気があったのか
その後も夏休み企画などで
度々上映してくれたので
その都度足を運んだ記憶があります。
「 緯度0大作戦 」は
何回も見ている今では
ストーリー展開や
キャラクター等の設定
着ぐるみのチープ感など
カットごとに細かく見れば
ツッコミどころは満載だし
あっ! ここにも
” キャシー・ホーラン ” !!!
といったような
違った発見も楽しみですが
最初に劇場で見たときの
全体を通した印象 は
物語のテンポがよく
上映時間( 日本版 )の89分間が
あっという間に
過ぎる感じで進んで行き
ラストに大きな “ オチ ” があって
終了します。
この ラストの “ オチ ” により
見ている側にとっても
今見たものは
幻想だったのか現実なのか
よくわからないまま
混乱した状態で終わるといった
余韻が残ります。
この漠然としたラストは
観客を夢が現実かわからないまま
終わらせるという意図が
製作者側にあったようで
僕はその術中に
まんまとハマってしまった
というわけです。
特撮部分 を見ていくと
特撮TVドラマ
「 マイティジャック 」にも通じる
万能潜水艦α号 と
敵艦の 黒鮫号 の
メカニック部分。
万能潜水艦α号
黒鮫号
それと
海底火山 や
宿敵の悪の科学者 マリクの住む
ブラッドロック島の
爆発シーンは見応えがあります。
海底火山の爆発
ブラッドロック島の爆発
怪物の特撮シーンについては
哺乳類や鳥類といった
毛モノ,羽モノを
着ぐるみで表現するのは
安っぽさが出てしまって
なかなか難しいと思いますが
これらとの戦いのシーンが
冗長にならずに
テンポよく進むので
特に気になるといった印象は
ありません。
337頁 によれば
大ネズミ は
最初 モグラ と想定されていた
ようですが
ウルトラQの『 モングラー 』のように
モグラでもよかったような
気がしますが
ネズミやコウモリの方が
マッド・サイエンティストの
マリクが造った獣として
気味の悪さがより出て
悪役感が増す
といったところだと思います。
それと
マリクのシモベである
コウモリ人間 ですが
意外と弱く
マッケンジー艦長たちの武器や
大前均 氏扮する コーボ に
肉弾戦で
俵返しをくらったりして
簡単に倒されてしまいます。
というか
コーボが強すぎるんですけどね。
コウモリ人間は
グロテスクな割には
ちょこちょこと歩く姿が
コミカルで
中山麻里 女史扮する
岡田博士の娘の 鶴子 を
押さえつける際に
どさくさにまぎれて
鶴子さんの胸を触ったりしています。
まあ
この当時の 中山麻里 さんは
最高に綺麗でしたから。
これはもう役得でしょうね・・・。
このカットは日本版にはありません。
ところで
この作品を シーンごとに見ると
疑問に思う箇所がいくつかあります。
その一つに
マリクたちとマッケンジー艦長たちとが
争っている際に
マリクが誤って情婦のルクレチアを
刺し殺してしまった後
死んだルクレチアは
灰になってしまいます。
ほかには
マリクから
黒鮫号に連絡を取ったとき
通信を受け取った
副艦長の “ 陳 ” から
艦長の “ 黒い蛾 ” が
マイクを奪い取るようなシーンがあり
お互いにいがみ合っているような
描写があります。
そしてもう一つ
本作は全編英語で収録されています。
日本人キャストも
コーボ以外は
全員英語で収録し
後に日本語で吹き替えています。
なので
黒鮫号は “ ブラック・シャーク ” と
呼んでいます。
これはわかりますが
黒鮫号の艦長の “ 黒い蛾 ” は
“ ブラック・モス ” かと思いきや
“ クロイガ ” のままなんですね。
固有名詞だから
当然といえばそうなんですが
ネーミングに違和感を
覚えるんですよね。
これらの疑問を解くカギは
原案にあります。
本作は決定稿までに
相当な改変がなされたようです。
その原案によると
ルクレチアは吸血コウモリに変身して
主人公たちを襲うとしています。
だから
吸血コウモリ=バンパイア なので
死ぬとドラキュラのように
灰になったというわけですね。
つぎに
黒鮫号艦長の “ 黒い蛾 ” は
原案では
“ ハルトゲ ” という男性で
ルクレチアと通じているという
設定です。
劇中でルクレチアがマリクに対して
「 あんな女を追い出して “ 陳 ” を
黒鮫号の艦長にしてちょうだい。」
という台詞があります。
これは黒鮫号の艦長が
女性のキャスティングとなったために
原案が変更されますが
本来の設定をなるべく残そうとして
代わりに副艦長の男性 “ 陳 ” と
ルクレチアが通じているとする
設定にしたからなのでしょう。
さらに
“ ハルトゲ ” という
固有名詞ということを
前提としながら
黒鮫号の艦長に
黒木ひかる 女史の
キャスティングが決まったため
英語での発音を考慮しながら
名前を変更する必要があり
さらに
年増の悪女を連想させるような
ネーミングの落としどころが
“ クロイガ ” になり
それを日本式に
“ 黒い蛾 ” という字を当てたので
このようなネーミングになったと
想像します。
この作品の 英語版 では
マッケンジー艦長の
忠実な部下である
コーボ( 甲保 )だけが
全て日本語で話します。
これについては
おそらくですが
主君に忠実に仕える家臣として
日本の侍をイメージしたのかも
しれません。
そういうことならば
英語より日本語で貫いた方が
イメージとして
格好がよくなるような気がします。
最後に
ロートン記者 が
マッケンジー艦長に対して
『 いつになったら緯度0の秘密を
世界に知らせるのか? 』
との台詞があります。
これに対して
マッケンジー艦長 は
『 全人類が平和に共存できるとき 』
であると答え
そして現実に起こっている
戦争,デモ,飢餓の映像が流れ。
これまで
アメリカン・コミックのような
荒唐無稽で非現実的な展開から
一気に現実に引き戻されます。
ここは
これまでの
本多猪四郎 監督作品のように
現実の世界に非現実の
怪獣や宇宙船を溶け込ませて
本編部分と特撮部分を分けない
といったスタンス。
かつ
戦争の惨さと
それを再び繰り返す愚かさに対する
戦争体験者である両監督の
アイロニーが込められていると
考えられます。
こうしてみると
『 緯度0大作戦 』は
英語版そして原案の資料などを
色々と見ていくと
足らないものが補完され
より深みが出てくる。
そんな作品ではないでしょうか。
~ 参考資料 ~
・『 緯度0大作戦 - その成立と作品像
- MONSTRUM 第2号 』 鈴木宣孝
MONSTRUM 1988.8.8
以上
読んでいただき
ありがとうございました。