かつての名作に
「 バルカン超特急 」という
映画がありました。
この作品が
巨匠・アルフレッド・ヒッチコック監督の
サスペンス映画であることを
大半の方はご存じと思います。
全く知らない方は
「 バルカン超特急 」と聞くと
新幹線 や TGV といった
高速の 弾丸列車 が登場するのかな !?
と連想しがちです。
原タイトルは「 The Lady Vanishes 」
(直訳すれば「淑女が消える」)で
これを見れば
夢の超特急を想像することはないでしょう。
ではなぜ “ 超特急 ” という
邦タイトルを付けたのでしょうか !?
この作品の初公開は
アメリカ,イギリスでは 1938年 で
時代的にみても
列車が “ 蒸気機関車 ” であることは
容易に想像ができます。
一方
日本での初公開は
ずっと遅れた 1976年 です。
この頃の時代背景は
「 東海道新幹線 」が
東京・新大阪間を
1964年10月1日 に開業しました。
そこから「 山陽新幹線 」へと延長し
博多まで開業したのが
1975年3月10日 のことです。
確かに
アメリカ,イギリス初公開時の
1938年 には
世界最高速の蒸気機関車
(時速126マイル(202.7km))
イギリスの「 マラード号 」が
誕生していました。
また
日本においても
1939年 に 弾丸列車計画 が
ありましが
「 バルカン超特急 」に出る機関車が
イギリスの
「 A4形 4468 マラード号 」や
ドイツの「 05形 」に見られる
“ 超高速 ” を意識した
流線型 にこだわった形状の
蒸気機関車でもないので
邦タイトルは時代的に
新幹線 にあやかり
“ 超高速列車の潮流 ” に乗って
“ 超特急 ” と付けたのではないか
と推測します。
「 バルカン超特急 」の日本公開から
およそ 3年後の 1979年に
TVドラマ
「 原子力超特急スーパートレイン 」
( 原タイトルは「 Supertrain 」)が
アメリカで放映され
日本でも同年に
「 日曜洋画劇場 」の 2時間枠 で
「 スーパートレイン
/ 豪華原子力超特急・謎の連続殺人事件 」
というタイトルで
1話に当たるパイロット版を放映。
少し間が空き
1981年からは
1時間枠で 2話からの本放送が
スタートしました。
この TVドラマには
“ 夢の超特急 ”
スーパートレインが登場します。
その性能は
原子力を動力源として
最高速度は 時速250マイル(402.34km)
巡航速度は 時速190マイル(305.78km)
で走行。
列車のデザインも
先頭車両は
高速走行に適した低い車高で
1970年 にコンセプトカーとして登場した
「 トヨタ EX7 」を列車にしたような
未来型デザインになっています。
TOYOTA EX7『ザ・スーパーカー[第2弾]』二見書房,1977,No.51
客車の設備も 2両目からは
これまた当時の憧れであった
ロンドンのバスような 2階建てで
車内には
プール,ショッピングセンター,美容室,
医療センター,トレーニングジム,
そして ディスコまでもが設置されている
高級志向の旅客列車です。
編成された列車の外観は
アニメ「銀河鉄道999」に出てくる
ようでもあります。
それからこの列車
アニメの車両と異なり
実際の列車の
プロトタイプかと思うくらいリアルです。
それもそのはず
フルサイズの列車のほかに
中型サイズ,小型サイズの列車の
3タイプの模型が作られました。
これらの模型とセットに
合計およそ 500万ドルとも 600万ドルとも
言われる費用をかけたとされています。
その意図はおそらく
“ supertrain ” の
リアルかつ豪華なメカニックを
見せることと
俳優たちのドラマでも見せるという
両輪走行で
当時視聴率で低迷していた NBC が
巻き返しを図ろうとしたものだと思います。
しかし
両輪が上手くシンクロせずに
どっちつかずの
中途半端に終わったこと。
ドラマ部分でも
サスペンス? コメディ? パニックもの?
といったジャンルが安定せず
混迷してしまったこと。
さらに
“ supertrain ” の設定も
最高速度は 時速250マイルでありながら
途中停車駅が多く
ニューヨークからロサンゼルスまで
36時間もかけて走行し
線路もカーブがやたらに多い印象で
ストレートのスピード感がないといった
ちぐはぐさが目立つといったことなど
雑誌をはじめ
方々から酷評されまくり
この作品は
わずか 9回で終了してしまいました。
確かに
“ supertrain ” の
メカニック部分を強調すれば
俳優陣の個性に着目した
緻密なストーリーが
おざなりになってしまうし
反対に
ドラマ部分を重視すれば
超高速列車内の設定である必要性は
薄れてしまいます。
まあこれは
観念的な評価になりますが
シナリオとディレクションの工夫で
いい素材を活かすことが
できたのではないか !?
と,外野からは何とでも言えますが…。
日本の TVドラマでも
「 マイティジャック 」が
このようなジレンマに陥り
多額の費用をかけたにもかかわらず
13回で終了と
同じような憂き目にあってますよね。
やはりこの手の失敗作によくある
局側と製作側
そして
監督及びスタッフの間で
それぞれの考えが伝わらずに確執化し
さらにはスポンサー側が
口出ししてくるとなると
現場は混乱することは必然です。
そういったものが元凶となったのかな?
と想像します。
僕もこの TVドラマに関しては
多くの意見とほぼ同じですが
“ supertrain ” のデザイン は
非常に気に入っています。
僕と同じような
外国 TVドラマ好き + 鉄道好きの
コアなファンがいると思われ
その理由の一つとして
「 原子力超特急スーパートレイン 」の
日本版 Wikipedia が存在します。
おそらく “ Supertrain ” 好きの
方々が作成してくれたんでしょう。
その一方
「 原子力超特急スーパートレイン 」
のドラマに対して
” 車輪付きの「ラブ・ボート」”
と揶揄されますが
本家の「ラブ・ボート」
( The Love Boat )は
本国ではおよそ 9年間放映された
大ヒット TVドラマですが
日本ではいまいちで
日本版 Wikipedia も存在しません。
( 2021.6.27 現在 )
そして
僕を含めた “ Supertrain ” ファン達の
淡い期待は
作品の DVD化 と
“ supertrain ” の 鉄道模型化
にあると思います。
ところで
この “ Supertrain ” が放映された
1979年には
映画「 チャイナ・シンドローム 」が
公開され
そのアメリカでの公開日(3月16日)から
12日後の3月28日に
発生した年です。
したがって必ずしも
原子力礼賛という時代ではありませんが
“ Supertrain ” は
制作されたものと考えられるので
“ 原子力のヤバさ ” を
クローズアップしたものでは
ありませんでした。
第1話「 Express to Terror 」の
ラスト近くの見せ場のシーンで
列車に急ブレーキをかけるシーンが
あります。
もし原子力事故の恐怖が
クローズアップされたならば
カーブを振り切ったり
転倒による脱線事故の先にある
さらに恐ろしい事態が想定できますが
そういった
「 チャイナ・シンドローム 」のような
原子力の先に存在する
恐怖の煽りもないので
エネルギーは
石炭 から 石油 そして 原子力 といった
原子力を
未来を担う象徴的エネルギー
であることのみのメッセージでしかなく
この時代に制作されたにもかかわらず
その辺りの “ お気楽さ ” もあり
パニックものとしても
中途半端な感じは否めないでしょう。
ではそもそも
実際に原子力エネルギーを
動力とした列車はあったのでしょうか。
実は,米,ソ,西独,そして日本で
1950年代 に 原子力機関車 の
研究開発が進められていました。
この動力のしくみは
核分裂反応による熱で水を沸騰させ
その蒸気でタービンを回し
回した蒸気タービンで電気を発電。
起きた電気によって
モーターを回転させることで
車両を動かすという
電気式が取られています。
しかし
事故が起こった場合の
放射能漏れを防ぐ安全な方法の確立。
また
放射能を遮蔽するために
超大型かつ超重量の設備を要することと
その費用といった
技術面,経済面からして
原子力機関車を生産するよりも
原子力発電に研究開発を向けた方が
より実現性が強いことから
原子力機関車が実現することは
ありませんでした。
機関車以外でも
イギリスの TVドラマ
「 サンダーバード 」には
原子力推進の飛行機が登場しますが
こちらも
原子力飛行機の実用化には
至りませんでした。
余談ですが
垂直離着陸が可能な
サンダーバード 2号 は
ホーカー・シドレー製の設定で
ホーカー・シドレーは
実際に
世界で初めて実用化した
垂直離着陸機( VTOL機 )
ハリアー を
開発・製造している
実在の航空機メーカーです。
この設定については
最初からなのか後付けなのかは
わかりませんが
カルトQ の
「サンダーバード・ファミリー」の回でも
出題されてましたよね。
閑話休題。
これに対して
艦船については
原子力動力システムが実現しています。
これは
長期間燃料補給をする必要がなく
長時間の航行,潜航が可能なことや
酸素を必要とせず,排気も出さないので
それに伴う設備も不要なことなどから
原子力のメリットが
そのデメリットやリスクを
上回るとされるので
建造・運用が行われています。
ちなみに日本には
原子力の空母や潜水艦はありませんが
下の切手は日本にも “かつて” 存在した
原子力船の進水を記念して発行された
切手です。
原子力船進水記念切手 1969年6月12日
( " 原子力船 ” むつ )
そういえば
原子力潜水艦といったら
これまた懐かしの
「 原子力潜水艦シービュー号 」
( その後タイトル変更して
「 原潜シービュー号 海底科学作戦 」)
( 原タイトル
「 Voyage to the Bottom of the Sea 」)
というアメリカ TVドラマがありました。
「 タイムトンネル 」に先立って
アーウィン・アレン が
プロデュースした TVドラマで
SF映画「地球の危機」を TV向けに
再構成したものです。
アメリカでは 1964年 から
およそ3年半放映され
後の「 スタートレック 」などにも
影響を与えたと言われています。
この作品は
舞台が “ 原子力潜水艦 ” ということもあり
女性の登場人物が極端に少なく
“ 華 ” に欠けるとも指摘され
今のご時世なら
“ ジェンダーレス ” と言われそうですが
日本でも知名度があり
日本語吹替版が残っている
第2シリーズ以降のカラー版が
DVD化されています。
といったところで
今回は
「 原子力超特急スーパートレイン 」を
中心として
よもやま話を展開しました。
以上
読んでいただき
ありがとうございました。
〈 参考資料 〉
・Supertrain (NBC 1979) - Express to Terror (Star Classics Release)
https://www.youtube.com/watch?v=marbyrYVMdg
・TODAY SHOW 1979 - SUPERTRAIN on NBC
https://www.youtube.com/watch?v=yBMVAzIMl5A&list=LL&index=6
・Supertrain
http://nbc_supertrain.tripod.com/
・America's Failed 1979 Supertrain
https://www.core77.com/posts/30641/Americas-Failed-1979-Supertrain
・Supertrain NBC TV Show Model Super Train 1979
https://www.youtube.com/watch?v=iHlM30nFT5A&list=LL&index=1
・横堀進『原子力機関車について』
日本機械学会誌. 1956年,
59(449), p514-518
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmemag/59/449/59_KJ00001463893/_article/-char/ja/
・LNER Class A4 4468 Mallard - wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/LNER_Class_A4_4468_Mallard
・DRG Class 05 - wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/DRG_Class_05
・弾丸列車 - wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%BE%E4%B8%B8%E5%88%97%E8%BB%8A
・阿部邦雄
『アメリカTV映画ハンドブック』
洋販新書, 1982, p168-169