メカゴジラの逆襲考
チタノザウルス は
映画 「 メカゴジラの逆襲 」 に登場する
怪獣 ( 劇中の設定では「 恐龍 」 ) です。
そのフォルムは
首が長く
とはいっても
実在したとされる
ブラキオサウルス のような
カミナリ竜 でしたので
劇中の チタノザウルス は
そこまで長い首ではなく
四足歩行でもありません。
そのほかには
頭から背にかけて鰭が付いていて
そして頬に鰓のような鰭もあります。
尾は開閉できる膜があり
陸上では
その尾を開き左右に振ると
突風を起こすことができ
それが最大の武器でもあります。
皮膚感も水陸両棲の恐龍との設定らしく
身体中がオオサンショウウオの
頭部のようなブツブツで
体色も赤を基調とした極彩色です。
鳴き声については
象の鳴き声を刻んで
つなげたような声です。
小林晋一郎 氏の著書
『 形態学的怪獣論 』
朝日ソノラマ 1993 137頁 によれば
形態は
『 パラサウロロフスに似ている 』
とありますが
スピノサウルス のような
感じもします。
今の恐竜の姿勢は有力説に基づき
「 ジェラシックパーク 」 でも
二足歩行の恐竜は足を支柱にして
頭と尾でバランスを取り
前傾姿勢で歩きます。
しかしかつては
「 恐竜100万年 」 や
「 恐竜探険隊ボーンフリー 」 の
恐竜のように直立姿勢でしたよね。
もちろん“ ゴジラ ”だって
直立姿勢です。
昔,上野の国立科学博物館の
入口にあった
タルボサウルスも直立姿勢でした。
スピノサウルスも直立させれば
チタノザウルスのように
なるんじゃないでしょうか。
造形としてはこだわりのある
非常にいい姿をしていますが
如何せんマイナー感があり
平成ゴジラ作品でも
復活はなかったし
玩具化された数も少なく
プレミアものです。
しかし
当時の文献を改めて見ると
インタビューでは
こだわりがあり
力を入れていた怪獣
であったことがわかります。
中野 氏は
恐竜は極彩色であった
という説を取り入れます。
ガイガンやチタノザウルスの
カラフル感にもそれが表れていて
サイボーグ怪獣のガイガンとは異なり
ブツブツの皮膚感に
細かい色の違いも施されて
チタノザウルスのフォルムは
爬虫類と両生類の中間のような
動物としてのリアルさが出ています。
これによって
メカゴジラとの
色や肌質のコントラストが
強調されています。
ただ,撮影に当たり
赤色系の極彩色にこだわったせいか
対照的なダーク系の色のゴジラとの
場面ではライティングの処理が
非常に難しかったと語っています。
体色の他には
動物が威嚇するときや
戦闘態勢をとるときの
ポーズにも注目し
動物が威嚇する際に
鰭や羽を立てたり
体をより大きく見せる
行動をとります。
ガイガンやチタノザウルスには
鰭があり
威嚇のポーズも
ガイガンは背の鰭を広げ
鎌状の手を振り上げ
カマキリのようなポーズで
威嚇し戦闘態勢をとります。
ほかの怪獣でみると
キングシーサーの戦闘態勢は
耳を立てます。
そして
チタノザウルスについては
普通に着ぐるみに入っていると
前傾姿勢しかできませんが
着ぐるみに逆に入ってもらい
反り返ってもらって
大きくかつ動物の柔軟性を
強調した動き
そういえばゾウアザラシやコブラ,
アホウドリが争うときに
反り返るポーズに似ていますね。
こういった演出を試みたそうです。
また
怪獣の迫りくる迫力を出すために
横長のシネスコサイズに反し
縦長の細長い怪獣を創り
高めのアングルを多用して
撮ったそうです。
( 前掲『 ゴジラ大全集 』 147頁 )
極めつけは
古典芸能の能の動きにある
膝を少し曲げて
重心をやや低く固定した
基本姿勢である「 カマエ 」 と
重心の高さを極めたまま
摺り足で踵を上げず
一足ずつ前へ進むという
動きの基本動作「 ハコビ 」 の
姿勢と動きは
動物が元々持っている
美しい動きに通じるものが
あると考え
古典芸能である
能の姿勢と動きの様式美を
チタノザウルスの動きに
取り入れたことです。
「 シン・ゴジラ 」 で
ゴジラの動きを演じて
話題となりましたが
これは
モーションキャプチャー といって
萬斎 氏の動きを
デジタルデータ化して取り込む技法が
今の技術では可能ですが
1970年代の技術では
能楽師を呼んで
着ぐるみの中に入って演技を
してもらうわけにも
いかなかったと思います。
ちなみに
チタノザウルスの着ぐるみに
入っていた方は
ウルトラマンレオに入っていた
二家本辰己 氏です。
このように
「 シン・ゴジラ 」 以前に
既にチタノザウルスの動きに
能の動きが取り入れられていた
ということです。
チタノザウルスは
マイナーな怪獣ではあるけれど
その容姿や動作については
一旦区切りを迎える
最後のゴジラ作品に
登場するにふさわしい
新怪獣への
特技監督の実験的な試みとこだわりの
魅力が詰まった集大成といえます。
今後「 ゴジラ作品 」が
また作られるとしても
チタノザウルスの再登場は
難しいと思いますが
チタノザウルスにかけた
アイデアとスピリットは
生かされると期待します。
~ 参考文献 ~
以上
読んでいただき
ありがとうございました。